父が亡くなった後の家賃は誰のもの?精算のフローチャート
ご相談
父が亡くなり、兄と私で、父が貸していた家をどう相続するか話し合っています。父が亡くなった後の家賃は、管理会社から兄の口座に振り込まれています。明細には、父が生きていた頃の未払い分と、管理費の差引きもあります。家は兄が相続する予定ですが、これまでに入った家賃もすべて兄のものになるのでしょうか。
分割までの家賃は、原則として相続分に応じて取得します
お父さまが亡くなってから遺産分割までに生じた家賃は、原則として各相続人が相続分に応じて取得します。後から家を取得する人が決まっても、それまでの家賃の帰属は変わりません。相続人全員が合意すれば、精算の方法は話し合いで決められます。
まずは管理会社の送金明細や賃貸借契約書を見て、振り込まれたお金が何月分の家賃かを確認しましょう。お父さまが亡くなる前にすでに発生していた家賃が、後から振り込まれることもあります。
家賃と支出を確認する資料
- 賃貸借契約書と家賃の明細何月分の家賃か、契約上いつ支払う約束か、滞納していた月がないかを確認します。前払いや遅れての入金があるときは、通帳の入金日だけで生前分か死亡後の分かを決めないようにします。
- 管理会社の送金明細と通帳家賃の総額、管理会社が差し引いた金額、実際の入金額と受取人の口座を確認します。管理会社から複数月分がまとめて振り込まれているときは、送金明細で月ごとの内訳を確かめます。
- 管理費や修繕費の請求書・領収書何の費用を誰がいつ支払ったかを確認します。管理会社が家賃から差し引いた分と、相続人が手元のお金から立て替えて払った分を分けて記録します。
いつの家賃かで、何が変わる?
- 死亡前に発生していた未収家賃
お父さまが亡くなった時点で、すでに家賃を請求する権利があれば、その権利は相続によって引き継がれます。死亡後に入金された場合も、生前の未収分として明細で区別します。
- 死亡後、遺産分割までに生じた家賃
複数の相続人が共同相続した賃貸不動産では、その間の家賃を請求する権利は、遺産とは区別して各相続人が相続分に応じて取得するのが原則です。後の遺産分割で物件を取得する人が決まっても、過去の家賃までさかのぼってその人のものになることはありません。
- 遺産分割後に生じた家賃
遺産分割によって一人が賃貸不動産を取得した場合、その後に生じる家賃は原則としてその人が受け取ります。管理会社へ連絡し、今後の送金先と、どの月の送金から変更するかを確認します。
最高裁平成17年9月8日判決では、家賃を一つの口座で管理していた相続人の間で、遺産分割後に残金の分け方が争われました。最高裁は、遺産分割の効力は相続開始時にさかのぼるものの、分割までに各相続人が取得した賃料債権の帰属は変わらないと判断しました。生前に発生した未収家賃を引き継ぐ根拠は民法896条です。民法896条・909条(e-Gov法令検索)最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決(平成16年(受)第1222号)
管理費も含めて、精算額はどう決める?
下の表は架空の例です。相続人は子Aと子Bの二人で、父は5月31日に亡くなり、8月1日の遺産分割で子Aが貸家を取得しました。管理会社からの送金は子Aが受け取っています。家賃は当月末払いで、5月分は父の死亡前に請求できる状態でした。
| 家賃の内訳 | 家賃 | 差し引かれた管理費 | 入金額と入金日 |
|---|---|---|---|
| 5月分の未収家賃 | 80,000円 | 0円 | 80,000円(6月10日) |
| 6月分の家賃 | 80,000円 | 10,000円 | 70,000円(7月5日) |
| 7月分の家賃 | 80,000円 | 10,000円 | 70,000円(8月5日) |
6月10日に入った8万円は、生前の未収分として別に記録します。8月5日に入った7万円は、遺産分割が成立した後の入金であっても、分割前に生じた7月分です。
死亡後から遺産分割までの家賃は、6月分と7月分の計16万円です。相続人全員が、差し引かれた管理費2万円をこの家賃から負担し、残る14万円を半分ずつ受け取ると合意した場合、子Aから子Bに支払う精算額は7万円です。
修繕費などをどちらかが立て替えていたら、対象期間と領収書を確認し、今回の精算に含めるかを話し合います。すでに送金明細で差し引かれた費用は、立替分として二重に引かないようにします。家賃の対象期間と費用の負担を確かめたうえで、相続人全員で精算額を決めます。
判決は、遺産分割だけでは家賃の帰属が変わらないことを示したものです。相続人全員で、家賃を分ける割合や費用の負担について話し合い、精算方法を決めることができます。家庭裁判所の遺産分割調停でも、相続人全員が合意すれば賃料債権や遺産の管理費用を取り上げられます。精算方法に争いがあるときは、入出金の明細と意見が異なる点を弁護士に伝えて相談します。大阪家庭裁判所「遺産分割調停の説明」図2・図3
家賃の精算は、遺産分割協議書にどう書く?
貸家を誰が取得するかとは別の条項に、対象物件、家賃の対象期間、差し引く費用、支払う人と受け取る人、支払額、期限と振込先を書きます。次は、上の例で5月分の未収家賃は別に取り決める場合の記載例です。
5月分の未収家賃はこの条項の対象外です。実際の合意に合わせて、対象期間、受取済みの額、差し引く費用、支払方法などを書き換えます。
未入金の月も残っているときは、すでに受け取った金額と分けて、後から回収できた分を誰が受け取り、いつ精算するかも決めておきます。
家賃の精算は、どこまで決まっている?
相続した貸家の家賃を精算するフローチャート
契約書と送金明細を照らし合わせ、生前の未収分、死亡後から分割までの家賃、分割後に生じた家賃を区別します。
対象物件・期間・差し引く費用と、誰から誰にいくら支払うかを記載します。
精算方法に合意できた場合
精算の期限と振込先を確かめ、支払い後は送金の記録を保管します。
家賃の精算を後で決める場合は、いつ話し合うかも決めておきましょう。
ご家族が同じ明細を見て話し合えるように

小野田 敦士
- 司法書士
- 行政書士
- 宅地建物取引士
家賃を受け取っている方の手元にしか、管理会社の明細がないこともあります。私なら、まず明細を共有し、何月分の家賃がいくら入り、どんな費用が引かれたかをご家族で確かめていただきます。判決の原則を知ったうえで、どの費用を誰が負担するかまで話し合えれば、協議書に精算の内容を具体的に書けます。
「遺産収益の精算」の条項を追加するには?
- 遺産分割協議書作成ツールで相続人と財産の分け方を入力する
- 「条項の追加とプレビュー」で「条項を追加」を押し、「金銭の精算」の「遺産収益の精算」を選ぶ
- 「この条項を追加」を押し、追加した定型文を編集する
- 対象物件と家賃の対象期間、差し引く費用、精算額、支払期限と振込先を合意に合わせて書き、プレビューで確認する
定型文には、賃料を受け取った方から別の相続人へ支払う文例が用意されています。「本日まで」などの期間や金額は、今回合意した内容に合わせて書き換えます。
家賃の精算について決まったことを、貸家の取得者を記した条項と分けて書けます。
家賃の精算条項を入れて協議書を作成する無料で作成・プレビュー相続した貸家の家賃でよくある質問
一人の口座に家賃が振り込まれたら、その人が全部受け取る?
振込先はお金を管理するために指定することもあります。振込先だけでは、誰にいくら帰属するかは決まりません。入金と支出を確認し、相続人間の精算方法を話し合います。
遺産分割前に家賃を毎月分ける必要はある?
相続人全員で合意すれば、精算するまでの受取人や保管方法を決め、分割時などにまとめて精算する方法もあります。受取人が明細や支払記録を保管し、他の相続人と共有できるようにしておきます。
ほかの財産の調査中でも、貸家の取得者を先に決められる?
相続人全員が合意すれば、貸家について先に遺産分割することもできます。家賃の精算を同時に決めるか、後で話し合うかも確認しておきます。不動産だけ先に遺産分割する場合の書き方